小山田の八幡様


 今では知っとる人も少ないが、昔々、小山田の峠に大きな大きな山猿が住み着いてしもうたことがあったんや。山猿は皆の畑を荒らしたり、峠を行く者の荷物を奪ったりとやりたい放題やった。そのうちに留守中の民家に押し入って荒らしまわったり、峠を無事に越えたければ通行料を寄越せとか言うようになってしもうた。

 集落の皆が困り果てておったところへ、一番若い新兵衛という男が一歩進み出て言った。

 「林城の林六郎左衛門様なら、あの山猿をなんとかする方法をご存知のはず。林のお城へ行き、なんとか知恵を授かって参りましょう」

 そうして新兵衛は今の小松ドーム辺りにある林のお城へ向かった。城の主六郎左衛門は新兵衛の訴えをじっと聞いた後、新兵衛の目の前に立派な長い錦の袋を取り出しておっしゃったんや。

 「私が信望する南無八幡大菩薩は阿弥陀如来を本地として弓矢八幡ともいい、武術の神でもあるのだ。八幡様の加護のあるこの御神体を使えば、そのような山猿などたちどころに退散するだろう」 

 六郎左衛門に手ほどきを受け、八幡様の御神体を預かった新兵衛は意気揚々と小山田の峠に戻り、その御神体の霊験で見事小山田の峠から山猿を追い出したんや。その後小山田の集落は立派な社殿を建て、新兵衛が林六郎から預かった八幡様の御神体をそこに大事にお祀りしたんやと。

 逃げた山猿は小山田の峠があんまり居心地のいい所やったもんやから、諦めきれんでしばらくしてまた戻ってきたんやけど、神社に御神体がきちんと祭られてるのを見て「こりゃああかん」とほうほうの体で小山田の峠から逃げ出して、今度は二度と戻ってこんかったんやと。

 八幡様の御神体は明治の41年頃まで小山田に祭られとった。今では井ノ口町の八幡様に祀られとるそうや。